冨岡真光(松山リハビリテーション病院)
理学療法診断学教室は,全国の理学療法士と横断的に連携して多施設共同研究を行うことによって,理学療法診断学の構築を目標とします.活動内容は,運動機能障害診断学の構築により,運動機能障害の定義,基準値,検査特性,診断特性を提供します.また理学療法診断学の構築によって,理学療法の必要性の判断,介入の効果予測,介入ポイントの提示を行います.臨床疫学的な手法を用いて理学療法評価を体系化していくことにより,理学療法の透明性を増し,社会の健康増進,疾病予防,リハビリテーション,高齢者介護に寄与していくことを目的とします.
理学療法士を取り巻く現状は,
1)養成校の急増による若手理学療法士の急増と卒後教育における需給バランスのゆがみ,
2)業務独占権の未獲得による他職種からの圧力,
そして
3)理学療法という職能の不透明性
であり,これらの課題を戦略的に解決していかなければ,理学療法士の行う理学療法の質も,社会からの評価も低下していくことが懸念されます.
この教室では,上述の課題に対する戦略の一つとして,理学療法診断学の構築を考えています.これは従来理学療法評価学と呼ばれていた領域を,臨床疫学的手法を用いて普遍化・標準化すること,および検査・測定→問題点の抽出→統合解釈→治療プログラムの立案といった臨床推論の過程に疫学的根拠を加味することによって,理学療法の適用判断を診断学的根拠をもって行うDiagnosis based Physical Therapyに発展させていくための土台となる学問です.これにより,患者の予後予測や障害の程度の判断を可視化することが可能となり,卒前卒後教育の際のベースを提供し,社会への説明責任を果たすことが期待できます.
このためには,全国の診断学構築に興味のある理学療法士を横方向につないで,共通の目標に向かって組織的に研究を進めていく必要があります.そこで,我々は地域の垣根を越えた理学療法診断学教室を立ち上げることにしました.大学研究室内での限定された活動だけではなく,情報技術を利用して全国の理学療法士をつないでいくことによって,この教室全体から質の高いエビデンスを提供していけると考えています.
患者を日々診療しているが,自分の行っていることが正しいのかどうかわからない,という人や,疫学的な知識がなく統計方法がわからない,という人も,教室員から研究指導を受けることができます.また全国の施設とのネットワークを作ることにより,共通のテーマで多施設共同研究を行うことも可能となります.
若手の理学療法士にとって,診断学に関する知識はレベルアップを図る上でとても重要な意味を持ちます.また理学療法診断学を,理学療法士に固有の専門技能として確立していくことで,自立した職能として社会に認知されることも期待できます.そして,今までは曖昧であった運動機能障害の定義や基準値,理学療法の必要性・効果を可視化することによって,理学療法という職能の透明性も改善することができます.
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